二次元から三次元へ、原子膜の自動積層への挑戦 株式会社エアメンブレン

株式会社エアメンブレン

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二次元から三次元へ、原子膜の自動積層への挑戦

【2022年7月28日発表】

株式会社エアメンブレン(本社:茨城県つくば市千現2丁目1-6つくば研究支援センター内、代表取締役:古賀義紀)は防衛装備庁安全保障技術研究推進制度JPJ004596で実施する「二次元機能性原子薄膜を用いた革新的赤外線センサの研究」(研究代表:佐藤信太郎(富士通)において、自社開発のグラフェンの自動転写技術を発展し、100層の多層グラフェンの自動積層に成功した。

グラフェンの説明

グラフェンは炭素原子のハニカム構造をもつ原子一個の厚さの膜である。

たいへん大きなキャリア移動度(電子の動きやすさ)を持ち、ダイヤモンドと同じくらいの硬さと熱伝導率を有する材料で、学術的な魅力に加え、近年では工業的な利用の観点からも期待が高まっている。

当初は黒鉛を粘着テープで剥離することにより微小サイズのグラフェンを得ていたが、銅箔を基材とする化学気相合成で大面積品を作成可能となり、工業利用が検討できるようになった。使用する場合は銅箔から用途に応じた基材(ターゲット基材)へ移し替える「転写」と呼ばれる作業が必要である。

自動転写法の開発

グラフェンは原子一個分の厚さであるため転写作業は細心の注意を要し、そのため従来は主に手作業で行われてきた。

転写作業ではグラフェンの破壊を防止するため、作業に先立って銅箔に合成した状態で樹脂を積層して補強する。その後銅箔をエッチングで溶かし、グラフェンを補強層とともにターゲット基材に積層し、最後に補強層を取り除いてグラフェンの積層が完成する。ターゲット基材がPETフィルムなどの「柔らかい」基材の場合は、補強層には熱剥離シートを使用し、一方ターゲット基材がシリコンウェハのように「硬い」場合、補強層には極薄のPMMA樹脂が用いられてきた。

エアメンブレンでは、熱剥離シートを利用したグラフェンの転写法を自動化する手法を開発し、さらにグラフェン/補強層のターゲット基材への密着性を向上するなどの工夫により、柔らかい基材だけでなくシリコンやガラスなどの硬いターゲット基材へも自動でグラフェンを転写することに成功、さらにこの工程を繰り返すことで10層の多層グラフェンを自動で積層するデモンストレーションを行った(2021年3月22日発表)。

自動積層による100層の多層グラフェンの形成

グラフェンは一層で光を2.3%吸収し、この特性を利用して光センサを実現する試みが進められているが、感度を向上するためグラフェンの層数を増やすことが必要となっている。またグラフェンは熱伝導特性が極めて良好な材料として知られているが、実際に電子デバイスなどで発生する熱量を排出するためには、熱量に応じてグラフェンを多層化して熱輸送特性を向上する必要がある。

従来、排熱材料としてグラファイトフィルムが利用されてきた。より高品質な排熱のためさらなる薄膜化が要求されているが、数百nm以下の薄さを制御性良く形成することは現状では困難である。そのような背景で、原子層から100nm程度の厚さを自由に制御する技術、すなわち「二次元」から「三次元」を構築する技術が求められてきた。

エアメンブレンでは自社開発した自動転写の技術を発展させ、自動積層による100層の多層グラフェンの形成に成功した。

図1は直径100mmのサファイア基板上に単層グラフェンを繰り返し自動積層して形成した104層の多層グラフェンの写真である。繰り返しの回数は125回である。またシート抵抗は25Ω(非接触式抵抗測定装置で測定)であった。なお1層の転写におよそ10分必要である。

図2はこの多層グラフェンのラマンスペクトルである。グラフェンの特徴であるGバンド、2Dバンドのピークが明瞭に確認できる。また2Dピークは左右対称であり、単層グラフェンを繰り返し積層して形成した乱層構造の特徴を示している。

図1
図2

今後の展望

図2のラマンスペクトルではグラフェンの欠陥に起因するDバンドが見られている。この欠陥は転写工程で発生するものと考えており、本技術をさらに改良して、欠陥発生を抑制した高品質な自動転写手法へと発展させる予定である。

この成果はグラフェンを利用するセンサの高感度化や放熱材料として利用する際の熱輸送特性向上など、グラフェンの工業的な利用分野の開拓に貢献するものと考えている。さらに、二次元の原子層材料を積層することにより三次元のバルク材料を形成するという新たな材料形成手法の確立に結びつくものであり、あたらしい材料特性発現の手法としても興味深い技術である。

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